2025年6月1日義務化!職場の熱中症対策、企業が今すぐ取るべき対応とは?
- 一也 大竹
- 6月2日
- 読了時間: 7分
更新日:6月3日
近年、夏の猛暑は厳しさを増し、職場での熱中症による労働災害が深刻化しています。このような状況を受け、2025年6月1日より、職場での熱中症対策が労働安全衛生規則の改正により義務となっております。対策を怠れば罰則も科されるため、対象となる企業は早急な対応が求められます。
この記事では、熱中症対策義務化の背景から対象となる作業、企業に具体的に求められる対策内容、そして今すぐ取り組むべき手順まで、詳しく解説していきます。
なぜ職場の熱中症対策が義務化されるのか?
今回の義務化の背景には、職場における熱中症による死傷者数の増加という痛ましい現状があります。厚生労働省のデータによると、職場での熱中症による死傷者数は近年増加の一途をたどり、2024年には統計開始以来最多の1,257人に達しました。特に死亡災害は3年連続で30人以上と、極めて憂慮すべき状況です。
おととしまでの4年間に発生した死亡災害103件を分析した結果、驚くべきことに9割を超える100件が、初期症状の放置や対応の遅れが原因だったとされています。熱中症は他の労働災害と比べて死亡に至る割合が約5〜6倍も高く、初期症状が見られても「大丈夫だろう」と自己判断したり、周囲の対応が遅れたりすることが、命に関わる重篤化を招いています。
これまでの労働安全衛生法でも高温による健康障害防止の措置は定められていましたが、初期症状への対応の遅れに直接対処する明確な規定はありませんでした。今回の改正は、この現状を改善し、熱中症の早期発見や重篤化防止のための具体的な対応を事業者に義務付けることを目的としています。
熱中症対策の詳細
熱中症対策が義務付けられるのは、全ての作業ではありません。
具体的に対策が必要とされる環境として、【WBGT(気温・湿度・日射などを考慮した暑さ指数)28度以上または気温31度以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を越えて実施が見込まれる作業】と定義されております。

熱中症対策を怠った場合、 6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
WBGTとは?
WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)は、熱中症予防のための指標です。気温、湿度、輻射熱、気流を総合的に取り入れた暑さの指標で、WBGT値が高いほど熱中症のリスクが高まります。
なお、作業強度や服装によっては、上記の条件に当てはまらなくても熱中症のリスクが高まることがあります。労働を管轄する省庁では、このような場合でも義務化される対策に準じた対応を推奨しています。
企業に求められる具体的な対策
熱中症対応の基本的な考え方は「見つける→判断する→対処する」であり、熱中症の重篤化を防止するため、事業場ごとに以下の措置をあらかじめ定め、関係作業者へ周知することが義務付けられています。
1.熱中症の自覚症状がある作業者や、熱中症の疑いがある作業者を見つけた者がその旨を報告するための体制を整備すること。
報告を受ける者の連絡先や連絡方法を明確に定め、作業中いつでも報告を受けられる状態を保つ必要があります。職場巡視、バディ制、ウェアラブルデバイスの活用、定期連絡などを活用して早期発見に努めることが推奨されています。
2.熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容(作業からの離脱、身体冷却、医療機関への搬送等)及びその実施手順を定めること。
事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の医療機関の連絡先や所在地等も含めて手順に記載することが望ましいとされています。
これらの義務化された措置に加え、労働安全衛生規則や職場における熱中症予防基本対策要綱に基づき、企業には以下の具体的な対策が求められています。
作業環境管理
高温多湿作業場所におけるWBGT値の低減に努めることが重要です。具体的な措置としては、発熱体と労働者の間に熱を遮る遮へい物を設けること、屋外作業場所では直射日光や地面からの照り返しを遮る簡易な屋根等を設けること、適度な通風または冷房を行うための設備を設けることなどが挙げられます。屋内の設備には除湿機能があることが望ましいとされています。また、高温多湿作業場所の近隣に冷房を備えた休憩場所や、日陰等の涼しい休憩場所を整備すること、足を伸ばして横になれる広さを確保すること、身体を冷却できる物品や設備(氷、冷たいおしぼり、水風呂、シャワー等)を設けること、水分・塩分を補給できる飲料水などを備え付けることも求められます。休憩施設の内部の温湿度を低下させる措置を講じることが望ましいとされています。
作業管理
作業時間の短縮等により熱中症予防対策を実施することが重要です。作業の休止時間や休憩時間を確保し、高温多湿作業場所での連続作業時間を短縮すること、身体作業強度の高い作業を避けること、作業場所を変更することなどが含まれます。 また、暑熱順化(熱に慣れて環境に適応すること)は熱中症の発症リスクに大きく影響するため、暑熱順化していない労働者に対しては、7日以上かけて熱へのばく露時間を次第に長くするなど、計画的に暑熱順化期間を設けることが望ましいです。 水分及び塩分の摂取は、自覚症状の有無にかかわらず、作業前後の摂取に加え、作業中も定期的に行うよう指導し、摂取を確認することが必要です。水分と塩分の両方を適切に摂取できる飲料(0.1~0.2%の食塩水、ナトリウム40~80mg/100mℓのスポーツドリンク、経口補水液等)を準備することが望ましいとされています。 作業中は、定期的な水分・塩分摂取の確認に加え、巡視を頻繁に行い、労働者の健康状態を確認し、熱中症を疑わせる兆候が見られた場合には速やかに作業中断等の措置を講じることが求められます。 連絡体制の整備は、前述の通り義務化された措置です。作業者が熱中症の自覚症状がある場合や、熱中症の疑いがある他の作業者を見つけた場合に報告するための体制を整備し、関係者に周知する必要があります。バディ制やウェアラブルデバイスの活用なども推奨されていますが、他の方法と組み合わせてリスク管理の精度を高めることが望ましいです。緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先や所在地等もあらかじめ定め、関係者に周知する必要があります。
健康管理
健康診断結果に基づき、熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患(糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全、精神・神経関係の疾患、広範囲の皮膚疾患等)の有無を確認し、必要に応じて就業場所の変更や作業転換等の適切な措置を講じることが重要です。これらの疾患の治療中の労働者については、産業医や主治医の意見を勘案して対応する必要があります。 日常の健康管理として、睡眠不足、体調不良、飲酒、朝食未摂取等が熱中症発症に影響を与える可能性があるため、労働者へ指導を行うとともに、必要に応じ健康相談を行う必要があります。労働者に体調不良の場合には必ず申し出るよう周知することも重要です。 作業開始前に労働者の健康状態を確認すること、作業中は巡視や声かけにより健康状態を確認すること、複数の労働者による作業では互いの健康状態に留意させることなどが求められます。休憩場所等に体温計や体重計を備え、必要に応じて身体の状況を確認できるようにすることも望ましいとされています。心拍数や体重減少率など、熱へのばく露を止める必要がある兆候を把握した場合は、作業中断を含めた措置を行うべきです。
労働衛生教育
高温多湿作業場所で作業を行う労働者に対して、あらかじめ労働衛生教育を行うことが重要です。教育内容には、熱中症の症状、熱中症の予防方法(作業環境管理、作業管理、健康管理を含む)、緊急時の救急処置、熱中症の事例などが含まれます。管理監督者を含む作業を管理する者に対しても、これらの事項について教育を行う必要があります。雇入れ時等の安全衛生教育や職長等に対する安全衛生教育でも、熱中症対策について留意する必要があります。
これらの対策を総合的に実施し、労働者の安全と健康確保に努めることが求められています。特に、義務化された報告体制の整備や実施手順の作成・周知については、民間調査によると十分に行われていない企業も多いとの結果が出ており、早急な対応強化が必要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
人事・労務担当者をはじめとする事業者は、自社の業務内容を確認し、義務化の対象となる作業がある場合は、リスク評価、報告体制の整備、手順の作成、そして関係者への周知・教育といった具体的な対応を速やかに進める必要があります。
義務化された対策に加え、作業環境管理、作業時間管理、健康管理など、関連省庁が推奨する様々な対策も参考に、労働者の安全と健康確保に向けた総合的な熱中症予防対策を推進していきましょう。
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